氷上のデブ

思いついた、試した、いつまで続くか分からない。

前に投稿した小説(同じものが小説置き場にあります)

痣者の死にかた

巌勝は長いため息をつきながら冊子を閉じた。 手作りの冊子は中学生の頃に巌勝が自分用に作ったものである。中身は、継国家だけでなく彼らの住む地域全体に伝わる伝説だ。 と、ここまで書いただけで読者諸君は鼻をぴくりと動かして「『原作』だね」とお察し…

虫かごの双子

今日も雨が降っている。しっかりした粒の雨で、数日降っているから、山にもだいぶん水が溜まっているだろう。 継国兄弟の住む家は山あいの村にある。代々家族で住んできた大きな家をたたんで移り住んだ古い農家だ。裏にかつてはこの家の畑であった土地があり…

君はガナッシュ、俺はチョコ

一体誰のチョコなんだ? 一体誰の、チョコなんだ? 一体誰のチョコ、なんだ! 同じフレーズがリフレインしている。歌いこそしていないが、うるさくて何も考えられない。 継国巌勝は大きくため息をついた。 朝食の席、炊き立てのご飯も今朝は口の中でもたつい…

水面のふたご

三日歩き続けた。 駆け抜けるようにして裏道ばかりを通り、階段を上がり、坂を登り、山へ入った。山で二度の野宿。三度目もあるのかと巌勝が思っていると、急に足を止めた縁壱が、標識のように腕を伸ばした。人差し指の先を見る。 山の麓に、こぢんまりとし…

ふたごの革命

革命が起こった。 王は捕らえられ、牢獄へ送られた。たくさんの兵士が死んだ。革命軍の兵士たちの歓声で、城壁は震え、石造りの城は崩れるのではないかと、巌勝は思った。 巌勝の潜む小屋の周りはひっそりと静かだった。城の、広大な敷地に作られた数々の物…

パイシート/まかろん

パイシート まかろん パイシート がりまるという二年生がいる。 彼の事を考えると、巌勝は知らず知らず眉根を寄せてしまう。縁壱に言わせると「ノスリのような目をしている」らしい。 ノスリとは。お前はなんだ、ぽやぽやした顔をして。 巌勝は腕組みをして…

はじめてのクリスマス

伊黒小芭内にとってのクリスマスは「どうでもいい行事」であった。 高校生にもなってクリスマスなど――というのは、それまで家族などとクリスマスを楽しく過ごしてきた者が思う事なのだろうが。 小芭内はサンタクロースを信じた事がなかった。 よりちもそうい…

さよなら銀河

俺の母親は、あそこにはいない。 自転車を止め、伊黒小芭内は空を見上げた。少しかすんでいるが、ぽつぽつと星が見える。 夜だから、田舎の道はたいてい真っ暗だ。しかし今、小芭内が通っている道は幅の狭い川を挟んで交通量の多い車道があるため、車のヘッ…

玉座の兄ちゃん

一匹狼でこの学校の頂点に立つと、不死川実弥は決心していた。学校の頂点といえば、何か。片目を薄くつぶって少し考える。 王か。この掃き溜め高校の王。 掃き溜め高校だから、ガラの悪い奴らばかり集まっている。一年生から三年生まで、喧嘩が大好きな、拳…

数えても数えても、悲しみは余るけど

縁壱の湯のみが割れた。 寮のいつもの五人でおやつを食べた後、マグカップやグラスを洗っていた縁壱が、湯のみの上にマグカップを落としてしまったのだ。 世界に一つしかない、兄弟揃いの湯のみだった。 小学五年生の頃、叔母が通う陶芸教室へ連れて行っても…

ベンチのふたり

実弥は不安だった。 お互いの気持ちを知ってから半年。学年は違えど同じ寮で暮らしているから、生活の上での距離は近いと思う。リビングで、食堂で、すべての共有スペースで、一緒になればいつも隣に彼がいる。初めて会ってしばらくは、腹が立つほど不愛想だ…

純愛ギャロップ

疑惑のトロット 突撃と玉砕のキャンター 純愛ギャロップ 疑惑のトロット 冷麺をすする合間に不死川実弥は鼻をうごめかせていた。 こいつ、いい匂いがしやがる。 隣で冷麺を口に押し込むようにして食べている冨岡義勇の事である。 二人は朝から湯屋に来ている…

かれんなオトコマエ

厄介な夢 きらっきらのさなぎ 黒い鳥かご とべ!オトコマエ 厄介な夢 「おはようございます、お姫様」 声を掛けられ、小芭内はぎょっとして振り向いた。 にやにやしながら実弥が立っている。その横で義勇が深々と頭を下げ、「おはようございます、お姫様」と…

らせんしんどろーむ

ねじとねじで、ねじねじ ねじねじ交差点 らせんしんどろーむ ねじとねじで、ねじねじ 「ばあちゃんのチューリップは妖精に守られてんのやで」 庭の隅にある花壇のそばに立ち、祖母がそう言ったのは三年前の事だった。彼女は、花壇だけでなくこの家の庭に植え…

縁壱さん

今日もいつもの庭は穏やかな光に包まれ、春らしい雰囲気にあふれている。 ばらの妖精たち三人、リーダーの伊黒小芭内と仲間の不死川実弥、冨岡義勇は、朝から担当のバラの周りを飛び回ってかいがいしく世話を焼いていた。皆気分もよく、ケンカもせずに済んだ…